以前にもこちらのブログで
一度皆様に問いかけたことがありますが
皆様が思う好い筆記具とはなんでしょうか。
書きやすい、手に合う。
長く使う事ができる、美しいデザイン。
様々な意見があるかと思います。
その答えはなかなか出ず、だからこそ筆記具は面白いのですが、私個人は手にした時に心躍る、そんなペンが好きです。
手にするとき、文字を記すとき。
また、それをペンケースへ戻すとき、心が躍りわくわくするようなそんな筆記具。
心躍ると言いましても、感じ方は人それぞれかとは存じますが、心躍る筆記具という存在を共感いただけたら…と、そんな思いで文章をつづっております。
※「素晴らしき哉、人生!」は、単に私が好きな映画のタイトルです。
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パイロットの創立記念日は10月1日。
昨年2023年は創立105周年に当たる年でした。
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今回は、私の思う心躍る筆記具の一つとして、「パイロット創立65周年記念万年筆」(以下、「パイロット 65」)をご紹介いたします。
かなりの長文となってしまいましたので、3篇に分けてお送りいたします。
一見、現行のカスタムシリーズと同じようにも見えるデザインの万年筆ですが、このペンとの出会いが、私の万年筆遍歴のひとつのきっかけでした。
今回は私の「パイロット 65」の思い出を…
私と万年筆との最初の出会いは、中学の入学記念になぜか両親へねだって買ってもらった「ペリカン M400 緑縞 EF」でした。
父に連れられ老夫婦が営んでいた地元の小さな万年筆店へ行きました。
父は「万年筆といえばモンブランがよいのではないか」と言っていたのですが、店主の旦那様が「今はペリカンがよくなっている」と勧めてくださり、色々試筆し決めたことをよく覚えています。
まだ小学生だった自分が万年筆を欲しがった理由は今ではなぜか記憶がありません。
恐らく007などが好きだった影響で、紳士への憧れから口にしたのかと思っています。
そんな不思議な縁で私の手のもとへ来たそのペンは当時の私にとって宝物。
外に運び出す時はいつも購入時に入れて貰った大きなペリカンの化粧箱に入れて持ち運んでいました。
その後しばらくは、そのペリカンだけをたまに出しては使うというペンライフを送っていました。
ところがある日、私は書店で枻出版社(現在はヘリテージ株式会社)の雑誌「世界の万年筆ブランド」を目にし購入をします。
その雑誌を手にしたことをきっかけに
“万年筆にはこんなにも多くのブランドがあり
こんなにも広い世界が広がっているのか!”
と、たちまち万年筆に嵌っていきました。
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自分ではじめて買った万年筆は同じお店で買った「パイロット カスタム74 細字」でした。
大学に入りアルバイトをするようになってからはお年玉もアルバイト代も全てをつぎ込んで、取り憑かれたかのようにペンを買い漁り始めます。
購入してはひたすら書くを繰り返す学生時代を過ごしていました。
毎日のように通っていた万年筆店のカフェスペースで、常連客のペンを借りて書きながら万年筆談話することが趣味のようになっていました。
大学2年のある日のこといつものように来店し、顔なじみの一人の常連客が本の書き写しをするのに使っていたのが「パイロット 65」でした。
その頃には持っている万年筆は10本は超えており「パイロット 65」の存在はもちろん知っていました。
しかし、当時の私のイメージはパイロットと言えばよくも悪くも優等生的なイメージ。
はじめて買ったカスタム74の細字がとても細書きでカリカリとした書き味であったこともあり、
“いいペンを作っているが
デザインが地味であまり面白みがないメーカー”
という印象を持っていました。
しかしその常連客から渡された「パイロット 65」を何気なく書いてみたとき私の手と心はその一本のペンに奪われました。
電撃が走るというのはこういうことなのだろうかと思ったその瞬間を今でも鮮明に覚えています。
貸していただいたペンを夢中で書き続けその書き味に驚きました。
書き味が良いとか悪いとかでなく、ただ書くことが楽しい。
こんなものがあるのかと。
やわらかい筆致にもかかわらず、腰があり、運筆の感覚と寸分の狂いもないように流れ出る筆跡。
それでいて、ただただ書くことが楽しく心が弾むような感覚。
最初は驚きの声を上げ、しだいに話すことも忘れていました。
それまでたくさんのペンを調べ、自ら書いてみて、一家言とはいかないまでも、万年筆について知った気になっていました。
しかしこのペンで書いたとき、頭をガツンと殴られたような言葉にならない衝撃。
使ってきたどの万年筆よりも、感覚に強く根差したような強い印象。
今まで、万年筆の書き味やそのデザインなどを褒めそやしながらも、私自身、少し不便な装身具としか見ていなかったのではないかと思わされました。
万年筆とは豊かな情緒をただその一本により表すことができ、また正しく用いたのであれば10年20年経っても使い続けることができる。
「パイロット 65」により、それに気づかされました。
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その後、すぐには買えないのが貧乏学生の悲しみです。
その時点ですでに30年以上前に発売された限定品だったので、なかなか良い状態のものに出会えず、お金をためて「パイロット 65」を手に入れたのは年も暮れたころでした。
あこがれていたその一本を手に入れた時はこれが「上がりの一本」だと思っていたのですが、現在の自分を見るに上がりどころかはじまりの一本になってしまったようです。
その頃に「パイロット 65」で書いたノートをたまに開くと、書いたときの記憶が思い起こされるようなその時と同じペンで書くことを不思議に思うような気持ちになります。
これもまた、長く使える万年筆の魅力かもしれません。
次回はパイロット創立65周年記念万年筆-中篇 国産万年筆の時代背景-
ペンの時代背景となります。
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【参考サイト】
パイロットコーポレーション.”「CUSTOM」シリーズ ヒストリー”.パイロットコーポレーション
https://www.pilot-custom.jp/history/.2023年9月29日閲覧
日本筆記具工業会.”<万年筆の歴史>詳細年表”.日本筆記具工業会.
http://www.jwima.org/mannehitsu_web/01rekishi/rekishi_nenphou.html.2023年9月30日閲覧
【参考文献】
すなみまさみち/古山浩一(2007).『万年筆クロニクル』.枻出版社
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