みなさまこんにちは。
唐突ではありますが、好い筆記具とはなんでしょうか。
書きやすい、手に合う。
長く使う事ができる、美しいデザイン。
様々な意見があるかと思います。
その答えはなかなか出ず、だからこそ筆記具は面白いのですが、私個人は手にした時に心躍る、そんなペンが好きです。
手にするとき、文字を記すとき。
また、それをペンケースへ戻すとき、
心弾むような、わくわくするようなそんな筆記具。
心躍ると言いましても、感じ方は人それぞれかとは存じますが、心躍る筆記具という存在を共感いただけたら…と、そんな思いで文章をつづっております。
今回は、私の思う心躍る筆記具の一つとして、
「シェーファー スノーケル」をご紹介いたします。
「スノーケル」という非常にユニークな万年筆の誕生に至るまでには、先ずは、SHEAFFER シェーファーという会社の説明を…。
少し長くなりますが、お付き合いいただければ幸いです。
アメリカを代表する万年筆メーカーの一つとして知られるシェーファーは、ウォルター・A・シェーファー氏が1907年にレバー式吸入機構を発明したことを端に発し、1913年にアメリカのアイオワ州フォートマディソンで創業しました。
当時、画期的なインク吸入方式であったレバー式の万年筆の発明により、シェーファーは成功をおさめて新興メーカーながら短い期間に市場の一角を占めるようになります。
1920年に”生涯保証”を謳って発売された「ライフタイム」は、他のブランド製品と比べて約3倍と高価であったにも関わらず、当時のアメリカでもっとも売れた筆記具となりました。
1924年に導入された「ラダイト材」を用いた鮮やかなジェードグリーンのセルロイド製品は、戦前における華やかなカラー軸の一大ムーブメントを引き起こし、その天冠に設けられた「ホワイトドット」はシェーファーのブランドアイコンかつ高品質の証明となりました。
その他にも、1929年発売された上下が尖った外観が特徴的なモデル「バランス」は、現在一般名詞として使われるバランス型の名前の由来となっています。
このように功績を上げればきりがないほど、革新的なモデルをいくつも生み出したシェーファーは、長い筆記具の歴史のなかでも燦然と輝くメーカーのひとつですが、同時に愛好家の心をつかんで離さない、独創的な機構をいくつも生み出しているメーカーでもあり、レバー式の発明に始まった、その歴史の中でも「スノーケル式」は独創的かつ革新的な吸入方式でした。
さて、ここからがようやく、本題のスノーケルの話となります…
「シェーファー スノーケル」は1952年に初代モデルが発売され、1968年まで製造されました。
その吸入方法は、同社で1949年に採用されたタッチダウン式と同様に、尻軸シリンダーを押し込む際に生じる空気圧を利用して、軸内のゴムサックを圧縮し、ゴムサックの復元力でもってインクを吸入するというものですが、その最大の特徴は、製品名でもあるスノーケル管(下記画像参照)を用いることにより、ペン先をインクに浸けずに行われる吸入動作です。
下記の説明書の通りですが…吸入動作は概ね以下の流れです。
1.尻軸を回すことでペン芯内を貫通する細いスノーケル管が繰り出して、尻軸シリンダーを引き出す。
↓
2.スノーケル管の先端部分のみをインクに浸けた状態で尻軸シリンダーを押し込み数秒間待つ。
↓
3.尻軸を回してスノーケル管を格納する。
スノーケル管を用いての吸入動作を行うことで、インクが付着する部分はスノーケル管のみとなり、インク吸入のさいにペン先を拭う必要がなく、吸入後すぐに筆記することが可能な構造を実現しています。
複雑かつ見た目のインパクトも大きなこの構造ですが、個人的な意見としてはスノーケルは量産された万年筆の中で、もっとも成功したメカニカルな吸入機構ではないかと思います。
・上二枚 → 繰り出されたスノーケル管
・左下 → スノーケル管先端部アップ
・右下 → ペン芯に収納された状態
このような複雑な吸入機構が誕生した背景には、
第二次大戦後にボールペンが普及してきたことがあります。
従来の筆記具市場は万年筆の独擅場といって差し支えないものでしたが、ボールペンという新たな筆記具の登場によって、そのシェアを大きく奪われていきました。
(クロスのクラシックセンチュリーは1946年発売)
その為、ボールペンの台頭に対抗するために、ボールペンのようにインクを簡単に補充することを目指して、各社でインク補充方式の試行錯誤が行われており、その中でシェーファーの出した答えがスノーケルだったのです。
そのため発売当時の広告では「ENDS “DUNK FILLING”」と大書されているように、ペン先をインクに浸けずに吸入が完結し、拭きとる手間がないことを利点を訴えています。
この”dunk free”を宣伝するために、シェーファーは多くの著名人を広告に採用するなど、創業以来で最大のキャンペーン活動を行い、社運をかけてこの吸入機構の革新性と使いやすさを宣伝しました。
また同時に多くのカラーバリエーションとラインナップ、そして字幅(16種類!!)を展開する力の入れようでした。
結果として、スノーケルは大ヒットを記録することとなり、シェーファーは市場のトップメーカーへ返り咲き、1950年代のシェーファーを代表する商品として、後世まで語り継がれることとなりました。
いささか長い文章になってしまいましたが、大まかにスノーケルについてお分かり頂けたかと思います。
外観上大きな特徴で、注射針やストローにも例えられるスノーケル管のインパクトは大きく、井上ひさし氏の小説『四捨五入殺人事件』にて殺人のトリックに用いられるなど様々な逸話にも事欠かないスノーケルですが、実際にスノーケルの万年筆を使用してみると、その見た目の奇抜さに相反して、よく考えられた構造と高い信頼性をもち(ゴムサックなどのメンテナンスは必須ですが)、当時のシェーファーの技術水準の高さを感じさせます。
私自身、はじめて見たときにはものすごい衝撃を覚え、何度も水を吸っては出してを繰り返して、何日も飽きずに観察していました。
当初の目的としては、簡便なインク吸入を求めて生み出された万年筆ですので、吸入動作を楽しんでいるのはすこし逆説的ではありますが、それでもこのスノーケル管を通してインクの補充するたびに心躍るものがあります。
具体的なモデルの解説については、後編に続きます…
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【参考サイト】
Jim Mamoulides(2001).”The Snorkel: A Sheaffer Innovation In Filling”.PenHero.com.
https://penhero.com/PenGallery/Sheaffer/SheafferSnorkelGuide.htm,2023年5月30日閲覧
Jim Mamoulides(2016).”Sheaffer Snorkel 1952-1959″.PenHero.com.
https://penhero.com/PenGallery/Sheaffer/SheafferSnorkel.htm,2023年5月30日閲覧
F.G. Thomas.”Fifty Years of Sheaffer Fountain Pens 1953 – 2003.”.sheaffertarga.com.
https://www.sheaffertarga.com/Sheaffer%201958%20to%202003/Sheaffer%20Pen%201958%20to%202003.html,2023年5月30日閲覧
F.G. Thomas.”WALTER A.SHEAFFER.”.sheaffertarga.com.
https://www.sheaffertarga.com/Sheaffer%20History/History%20of%20sheaffer.html,2023年5月30日閲覧
日本筆記具工業会,”<万年筆の歴史>詳細年表”.日本筆記具工業会.
http://www.jwima.org/mannehitsu_web/01rekishi/rekishi_nenphou.html,2023年5月30日閲覧
【参考文献】
すなみまさみち/古山浩一(2007).『万年筆クロニクル』.枻出版社
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