パイロット創立65周年記念万年筆
-中篇 国産万年筆の時代背景-

2024年03月13日

さて、前編は私の個人的な話でしたが、
中編では「パイロット 65」が発売されるまでの国産万年筆の時代背景を私なりにお話しさせていただきます。

あくまでも私の主観で、なかには誤りがあるかもしれません。
その点は大目に見ていただければ幸いです。
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日本における万年筆の製造は、明治末期の1910年代から各地で勃興し多くのメーカーが誕生します。

しかし1937年~1952年の戦前から戦後にかけては奢侈品の規制や金の使用制限と禁止、そして空襲などの戦火に見舞われ国産万年筆製造は長く厳しい冬の時代を経験します。

戦火と戦後の混乱を乗り越えて高度経済成長期をひた走りはじめた日本、その好調な経済を背景に数多くの万年筆が製造販売され、戦前から続いた手工業的な万年筆製造から大きく転換がおこっていきます。

1957年にプラチナから国産初のカートリッジ式万年筆「オネスト」が発売。

1962年に同じくプラチナから発売された18金ペン先の「プラチナ 18」などをきっかけにペン先の金品位の競争が発生し、パイロットは22金ペン先、プラチナとセーラーに至っては23金ペン先まで発売しました。

1963年には、舶来万年筆が輸入自由化され本格的に国内で流通が開始されますが、同年にセーラーから発売されたコンパクト万年筆「ミニ」などをきっかけに、「プラチナ ポケット」「パイロット エリートs」などワイシャツのポケットにさすことができるショート型の万年筆が国内の万年筆市場を席巻しました。

戦後の高度経済成長の波に乗り、順風満帆にみえる国産万年筆市場でしたが、1966年に「みえる・みえる」のテレビコマーシャルで一躍大ヒットとなったゼブラから発売された透明軸ボールペン「クリスタルS-4100」が発売されます。

時は同じくパイロットも1965年に世界初の0.5mm極細字のボールペンを発売するなど、海外に比べ普及が遅れていたボールペンが国内で本格的に普及しはじめます。

そして、より大きな衝撃であったと考えられるのは、1973年に行われた金輸入自由化による金価格の上昇です。

昨今も金価格が高騰しついに1万円の大台にのったことがつい最近にも大きな話題となりましたが、当時の金価格は日本銀行により公定価格として定められていました。

金輸入自由化により公定価格が廃止されると金価格は上昇を始めます。

自由化前の同年に定められた最後の公定価格が775円だったのに対して翌1974年は平均価格で1598円。
そして1980年には平均価格で4,499円にまで達する急激な高騰を見せます。

パイロットから1968年に登場した「エリートs」は定価は2000円、1971年に発売された「カスタム」シリーズではステンレスモデルの定価が5000円でしたが、急激な金価格の上昇をうけて、多くのモデルに採用されていた18金ペン先や21金などの高金製のペン先は次々と14金へと切り替えられ、従来のような比較的廉価なポケット型の万年筆の大量生産モデルは見直しを迫られていきます。

その後パイロットは1975年に「デラックス/16000円」
1978年に「グランディ トモ/7000円」「エラボー/12000円」
1979年に「ジャスタス/10000円」
と、矢継ぎ早にロング軸の新モデルを発表していきましたが定価は従来と比べて概ね上昇傾向にあり、1977年のメーカーカタログでは定価2000円だった「エリートs」も、モデルチェンジと価格改定が行われ定価5000円で掲載されています。

金価格の高騰やボールペンの台頭などに影響をうけた市場の大きな変化の中で、長らく国産では見られなかった爪ニブや貼り付けニブではない「大型のオープンニブのロング軸」が次々に誕生しいずれもヒットを記録します。

1978年にプラチナから発売された「ザ・万年筆#3776」(現在の#3776ギャザード)が定価15,000円で、落とし込み勘合ではありましたがエボナイト製のペン芯に回帰した大型のオープンニブで、古典的なフォルムでした。

同年パイロットから発売された「エラボー」についても、独自形状のペン先ではありますがオープンニブの系統になるかと思います。

そして1981年にセーラーから「プロフィット」シリーズが発売。

大型と小型(21とスタンダードのサイズ)で展開されそれぞれ定価は15,000円、10,000円。

このモデルに採用されたオープンニブかつネジ式勘合の両用式モデルというデザインは、殆ど変わることなく現代に至るまで国産万年筆市場のスタンダードになっています。

なお勘合方式について個人的な意見ですが、万年筆の発明時には単純にキャップと首軸の摩擦で止める勘合式だったものが、セーフティの頃より手工業的な工程によるネジ切によるネジ式勘合が主流となり、パーカー51の登場あたりから樹脂の射出成型による大量生産が可能な落とし込み勘合に主流が変化、そして国産ではプロフィットの頃から、落とし込み勘合からネジ式勘合に回帰し現在までの主流になっていると感じています。

左から…
▪ウォーターマン NO.12
▪ウォーターマン No.0642 セーフティ
▪パーカー 21
▪セーラー プロフィット

説明が長くなってしまいましたが、
「パイロット 65」が発売された1983年このモデルが発売された当時は、「#3776」そして「プロフィット」と、まさに現在の国産筆記具の高級ラインのひな型ができた時期といえます。

「パイロット 65」自身もその後のパイロットの高級ラインのベースモデルといえる製品でしたが、その定価はなんと38000円。

翌年のカタログに掲載されていた「シルバーン」が20000円であったことを考えると、貴金属を軸に使用していない製品としてはかなり高額モデルとしての設定だったのではないでしょうか。

次回はパイロット創立65周年記念万年筆 -後篇 魅力と歴史-
パイロット創立65周年記念万年筆についてひたすら語ります。

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【参考サイト】

パイロットコーポレーション.”「CUSTOM」シリーズ ヒストリー”.パイロットコーポレーション
https://www.pilot-custom.jp/history/.2023年9月29日閲覧

パイロットコーポレーション.”100年の歴史”.パイロットコーポレーション
https://www.pilot.co.jp/100th/history/.2023年10月30日閲覧

ゼブラ株式会社.懐かしのCM「みえる・みえる」、見えたのはインクだけ?.ゼブラ株式会社
https://www.zebra.co.jp/zebra_note/articles/mieru_mieru/.2023年10月6日閲覧

田中貴金属工業.金価格推移.田中貴金属工業
https://gold.tanaka.co.jp/commodity/souba/y-gold.php.2023年10月30日閲覧

日本筆記具工業会.”<万年筆の歴史>詳細年表”.日本筆記具工業会.
http://www.jwima.org/mannehitsu_web/01rekishi/rekishi_nenphou.html.2023年9月30日閲覧

【参考文献】
すなみまさみち/古山浩一(2007).『万年筆クロニクル』.枻出版社
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