世は春。
東京は桜の季節を過ぎ、あちらこちらで上を向く穏やかな視線が
日々の喧騒に負けんとする鋭い眼光に戻りつつあります。
今年も桜がくれたもの。
日本人の心に深く根付く”趣(おもむき)”の心。
筆記具を通して、皆さんの万年筆にも春の”趣”を取り入れてみては?
桜。
老若男女問わず、心躍る風景。
一年を通してこれほどまでに人々を魅了し、癒しを与える木々が他にあるでしょうか。
夏の緑、秋の赤に黄色、
様々な彩りが日本の四季を飾りますが、
やはり桜は別格のような気がします。
さて。
皆さんは、サクラモリ、ご存知ですか?
「桜守」
それは、文字通り桜の木を守り、育て、世話をする仕事を指します。
この時季になると話題に上がる事も多い、桜守。
単に桜の木の状態を観察する、といった単純な表現で済ますなかれ、
途方も無く深く、そして尊敬に値する世界なのです。
花がいつ咲いたのか、蕾の数はどうか、をはじめ、
花が咲く季節以外に、葉がいつ出た、茂り方はどうか、枝はどれだけ伸びたのか、いつ落葉したのか。
一年を通じて起こる桜の変化で健康状態を診断し、過去の状態や他の木々と比べ、
周囲の環境の変化や時間の流れも把握し続けなければなりません。
東京をはじめ、全国各地で話題になる桜の名所は大半が「ソメイヨシノ」。
桜とは、実に繊細な木であり、自生し自然に育つことは出来ません。
水に弱く、土壌環境にも繊細。
人の手を介さねば、美しく咲くことは困難といわれています。
今の日本の桜の9割以上が、江戸時代に交配種として開発されたソメイヨシノ。
桜の中では比較的手のかからない、生長の早い種。その分、寿命も短いといいます。
樹齢は50~60年ほど。
ソメイヨシノは種をつけない、またはつけても発芽しない品種なので、自力で繁殖する力もありません。
花が咲く時間が短く、樹齢も短く、繁殖力も弱い。
このはかなさが、人々の心を掴む一因かもしれません。
そんなソメイヨシノに対し、環境の維持、健康状態の維持で何百年という銘木が生まれるのが
所謂「山桜」。
品種改良を行わず、種から人の手で世話をし、育て、数十年という時間をかけ大木へと成長する山桜。
桜守とは、吉野の里を筆頭に、何世代にも渡り桜を世話する美しい仕事人の事。
花が咲く時季は一瞬。
その瞬間のためのみならず、桜が健康に、長く、生き続けるために生活を捧ぐ稀有な職業です。
50年以上もかかる成長スピードは、時に自らの命の先に完成する(完成という言葉は自然に相応しくないかもしれませんが)
ということを意味します。
想像もつかない世界。
自分の死後の美しさのために、人生を捧ぐ。
自分の仕事の結果が生きているうちに知ることが出来ない――。
美しく、なんと荘厳な世界。
街で人々を魅了する桜を世話する方々、
そして山に、里に咲く桜を一生かけ世話する方々。
365日を重ねる一年の2週間足らずに、このようなドラマが潜んでいるのです。
“万年”筆を扱う職業ではありますが、”何百年”の木々に命を懸ける方々には、尊敬の念、のみ。
心を満たすモノ。
それは、景色とともに筆記具にも言えること。
その瞬間、ひとときを大事にすることは勿論、
万年筆はじめ筆記具の世界も、長く愛し、育て続けることも魅力のひとつですね。
お気に入りの万年筆を眺めながら、
自分の筆記具達への愛情を再認識すべき時季、それが”春”かもしれません。
心穏やかに、気分新たに、目の前の筆記具と向き合ってみては如何でしょう。
桜、春をモチーフにしたインクとともに。
散った桜が再び輝くチャンスを、貴方の手元に。
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